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福岡地方裁判所 昭和59年(行ウ)18号 判決 1985年12月26日

北九州市小倉北区室町二丁目四番一六号

原告

月成剛平

右訴訟代理人弁護士

南谷知成

同市小倉北区萩崎町一番一〇号

被告

小倉税務署長

川邊正克

右指定代理人

辻井治

公文勝武

戸田信次

江崎福信

鵜池勝茂

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1(一)  被告が昭和五七年三月三一日原告に対してした昭和五五年一月分、同年三月分から同年一二月分までの源泉徴収による所得税についての納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分(ただし、いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの。)を取り消す。

(二)  被告が同日原告に対してした昭和五六年一月分から同年一二月分までの源泉徴収による所得税についての納税告地処分及び不納付加算税の賦課決定処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、興行場法二条一項の許可を受けて、業として興行場(いわゆるストリップ劇場)を経営していた者であるが、被告は、昭和五七年三月三一日、原告が右興行場の出演者(ストリッパーら)に対して別表(一)のとおり支払った昭和五五年、五六年度分の出演料について、別表(二)のとおり源泉徴収による所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分(以下「本件各処分」という。)をした。

2(一)  原告は、右各処分を不服として、被告に対し、昭和五七年五月三一日、異議申立てをしたが、被告は、同年八月三一日、右異議申立てを棄却する決定をした。

(二)  原告は、昭和五七年九月三〇日、右決定を経た後の本件各処分になお不服があるとして、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたところ、同所長は、昭和五九年六月二五日、別表(三)のとおり、本件各処分のうち、昭和五五年一月分、同年三月分から同年一二月分までの源泉徴収による所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分の一部と同年二月分の源泉徴収による所得税の納税告知処分の全部を取り消し、昭和五六年度分については審査請求を棄却した。

3  しかしながら、本件各処分はいずれも次の理由で違法又違憲である。

(一) (事実誤認)

原告の興行場における昭和五五、五六年当時の興行は、無芸のストリッパーが裸体を観客に晒しあるいは触れさせたりする破廉恥な観せ物でしかなく、「音楽に合わせて身体を動かし、感情と意思を表現する動作」(舞踊の意味-広辞苑第二版増訂版)を伴うようなものでなかったから、所得税法施行令(以下「令」という。)三二〇条四項に規定する「舞踊」に当たらない。

(二) (憲法八四条違反)

右「舞踊」の概念は、一義的に明らかではなく、不確定概念である。このような概念である「舞踊」の報酬について源泉徴収制度を適用することは、徴収納付義務者の予測可能性を甚しく害することになり、課税要件の明確さを要求している憲法八四条(租税法律主義)に違反する。

(三) (憲法三〇条、一八条違反)

源泉徴収制度が合理的なものであるためには、(ア)徴収納付義務者が税金を源泉徴収することについて納税義務者の理解と協力が得られること、(イ)源泉徴収をしないで納付した源泉所得税について徴収納付義務者が納税義務者に対し求償権を行使することができること、の二点が前提条件として必要である。

しかしながら、源泉徴収について本件興行場の出演者たるストリッパーの理解と協力を得ることは不可能であり、まして、ストリッパーに対し右求償権を行使するなどということは到底できるものではないから、かような場合にも源泉徴収制度を適用して原告に徴収納付義務を負わせることは不合理であり、憲法三〇条及び一八条に違反する。

よって、原告は本件各処分(ただし、いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの。)の取消を求める。

二  請求原因に対する答弁

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2(一)、(二)の事実は認める。

3  同3について

(一) (一)の事実は否認する。

原告の興行場における興行は、女性出演者たるストリッパーが音楽に合わせながら身体を動かし、かつ、その状態において身体の全部又は一部を観客に観覧させるものであり、令三二〇条四項に規定する「舞踊」に該当する。なお、ここにいう「舞踊」とは、踊りの目的、内容、程度等によってその意味が異なるものではなく、要するに「踊ること」であれば足りるというべきである。

(二) (二)は争う。

令三二〇条四項に規定する「舞踊」の概念は、右(一)で述べたとおり「踊ること」であり、広義の舞踊概念であって、社社会通念上十分明確である。

(三) (三)は争う。

原告は、女性出演者を原告の興行場に出演させ、観客から入場料を徴して経済上の利益を得るとともに、出演者にその役務提供の報酬を支払うものであるから、原告を徴収納付義務者とすることは、社会通念上適切、妥当であり、かつ、合理的である。徴収納付義務者としての原告の負担は、自らの義務の遂行に付随して処理し得るものであって、通常認容すべき限度内のものというべきである。

また、求償権を行使することができないとの点は、原告の主観的事情に基づく事実上のものにすぎない。

したがって、原告を徴収納付義務者とすることは、憲法三〇条にも一八条にも違反しない。

第三証拠

一  原告

1  甲第一号証

2  証人月成甫

3  乙号各証の成立はいずれも認める。

二  被告

1  乙第一号証の一、二、第二号証の一ないし三、第三、第四号証

2  甲第一号証の成立は認める。

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、本件各処分が適法であるか否かについて判断する。

1  前記争いのない請求原因1の事実と成立に争いのない乙第四号証、証人月成甫の証言(ただし、後記措信しない部分を除く。)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められ、甲第一号証、乙第二号証の一ないし三の各記載内容及び証人月成甫の証言中右認定に反する部分は採用しないし、他に右認定に反する証拠はない。

(一)  原告は、昭和四一年一二月二〇日、興行場法二条一項の規定に基づき、次の営業許可を受けた。

名称 室町劇場

所在地 北九州市小倉北区室町二丁目四番一六号

興行場の種別 演芸

定員 一〇〇名(いす席四八名、立見席五二名)

なお、昭和五五、五六年当時の右室町劇場の営業許可名義人は、武藤稔昭(昭和五四年七月二四日許可)となっているが、実質上の営業者は原告であった。

(二)  右室町劇場における興行の内容は、午前一一時から午後一一時までの間、通常五名ないし六名の女性出演者が、舞台上で音楽に合わせて身体を動かしながら身体の全部又は一部を観客に観覧させるいわゆる「ストリップショウ」を主たる出し物とするものであった。

2  ところで、いわゆる「ストリップショー」が令三二〇条四項に規定する「舞踊」に当たることは、所得税法二〇四条の法意に照して明白である。ショーの中に踊りを伴わない単なる観せ物的部分があったとしても、そのことは右判断の妨げにはならない。

3  原告は、「舞踊」の概念が不明確であるとして右令条の憲法八四条違反を主張するが令三二〇条四項は、所得税法二〇四条一項五号にいう映画、演劇その他政令で定める「芸能」として「音楽、音曲、舞踊、講談、落語、浪曲、漫談、漫才、腹話術、歌唱、奇術、曲芸又は物まね」を規定しており、芸能としての「舞踊」は、一般に「舞」とか「踊り」とかいわれているものの総称であって、これをどのような表現を用いて統一的に定義付けるべきかはともかくとして、報酬の対象とされた人のある所作がここにいう「舞踊」に当たるかどうかは、一義的に明確な判断が可能である。

よって、原告の右主張は採用することができない。

4  また、原告は、本件報酬(出演料)に源泉徴収制度を適用することは憲法三〇条及び一八条に違反する旨主張するが、源泉徴収制度は、本来租税の徴収の確保、納税手続の簡便化等のために必要な合理的な制度である。したがって、法が右制度を採用し、「ストリップショー」の出演者に対する報酬(出演料)についても右制度を適用することを規定した以上は、原則としてこれによるべきであり、右報酬について原告が主張する(ア)、(イ)に関する事情が仮にあっても、それによって右制度の採用又は適用が憲法三〇条又は一八条に違反することにはならないし、他に右憲法違反の判断を積極的に基礎付けるような事情はない。

よって、原告の右主張も採用し難い。

5  以上の次第で、本件各処分はいずれも適法である。

三  よって、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないから、これらを棄却することとし、訴訟費用の負担について行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小長光馨一 裁判官 古川順一 裁判官 金光健二)

別表(1)

<省略>

別表(2)

<省略>

別表(3)

<省略>

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